大阪府の代執行についての意見に反論してみる。


http://blogs.yahoo.co.jp/isikeriasobi/55431836.htmlにおいて大阪府の行政代執行についての解説および批判がなされているのですが、どうも納得できないので少し反論してみます。


まずこのblogを書いている人なんですが、国籍法関連のエントリーを書いてたり上記エントリーでも外国人の強制送還の例を挙げているところから、おそらく国籍法違憲判決の弁護団の一人である山○元一弁護士ではないでしょうか?(間違ってたらごめんなさい)まあ誰かはあまり関係なくて、どういう人が書いたのかが重要なのですが。
とにかく、外国人の強制送還関係の(行政)訴訟をしている人が書いた文章だということを念頭に置いておいてください。

<追記>
コメント欄で上記エントリーを書いた弁護士さんに反論をいただいたのですが、その反論をまとめてくださっています。
大阪芋畑闘争 疑問におこたえします


というわけで、僕もそれに対してさらに再々反論を書いてみました。
大阪府の代執行についての意見に再々反論してみる。

こちらもどうぞ。


<追追記>
大阪府の代執行について、法的観点からのまとめも書きました。



さて、まず経緯についてまとめてみます。

○経緯(大阪府 報道発表資料より)
  H19.2.27   起業者による収用裁決申請・明渡裁決の申立て
  H20.3.11  大阪府収用委員会による収用裁決
  H20.3.27  収用裁決に基づく起業者による補償金供託
  H20.4.10  収用裁決に基づく権利取得(西日本高速道路株式会社に土地所有権移転)
  H20.4.10  収用裁決に基づく明渡し期限
  H20.4.10  相手方から大阪地方裁判所へ執行停止申立
  H20.5.12  起業者から代執行庁(知事)に対し代執行請求書の提出
  H20.5〜8  代執行庁(知事)から相手方に対して任意の明渡し勧告
  H20.8.29  代執行庁(知事)から相手方に対して行政代執行法に基づく戒告(期限9.17)
  H20.10.1  相手方による執行停止申立に対し大阪地方裁判所却下決定
  H20.10.2  相手方から大阪高等裁判所へ執行停止申立却下決定に対する即時抗告
  H20.10.6  代執行庁(知事)から相手方に対して行政代執行法に基づく代執行令書の交付
  H20.10.16  行政代執行実施

簡単にすると、


西日本高速道路株式会社が第二京阪建設用の土地が欲しいので土地の収用裁決申立て

収用裁決

収用裁決に基づき西日本高速道路株式会社が土地の所有権取得
(=今は保育園の畑は西日本高速道路株式会社のもの)

収用裁決に対して相手方(おそらく保育園園長)が裁決の取消し訴訟とともに執行停止の申立て*1

(その間代執行をする大阪府が保育園園長と交渉したり)

大阪地裁、執行停止の申立てを却下(取消し訴訟はどうなったか不明)

現在大阪高裁に即時抗告中


行政代執行についての行政法の原則


上記エントリーでも説明されているのですが、より簡略化して説明してみます。


処分の執行に対して取消し訴訟(+執行停止の申立て)を提起しても執行は停止しないというのが、日本の行政法の原則(執行不停止原則)です。理由は行政の執行に対して取消し訴訟が提起されるたびにいちいち執行が止められてしまえば、円滑に行政目的が実現できないからです。
すなわち、仮に行政代執行に対して取消しの訴えが提起されたとしても、行政はお構いなく執行しちゃっていいというのが原則なのです。

しかしもし処分が違法なものなのに執行をしてしまうと処分の対象者を救済することができない(行政処分に対しては民事上の差止めなどができない)ので、例外的に以下の要件の下に執行停止の申立てにより執行が停止できるとしているのです。

執行不停止原則と執行停止原則のどちらをとるかは立法政策の問題ですが、日本は執行不停止原則をとっているということです。

執行停止の申立ての要件
1.処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき
2.公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがないとき
3.本案について理由がないとみえるときではないとき

反論


さて、以上を踏まえた上で、僕がおかしいと思った上記エントリーについてふれてみます。


上記エントリーでは執行停止の申立ての趣旨(行政訴訟は時間がかかるので、その間に執行されてしまうと取消訴訟の目的が達成されないなど)にふれた上で、執行停止の申立てがなされた場合に行政が執行していいかどうかという点について、以下のように書いています。

この間に、執行をすることはできるでしょうか。
 してよいという意見もあるのかも知れませんが、実務上はしていません。なぜなら、上記の趣旨からすればあきらかなとおり、執行停止が申したてられた以上、当該行政処分が停止された場合に「公共の福祉」が害されるかは、裁判所が判断するというのが日本の法律の基本的な考え方であり、それをまたずに執行することは、裁判を受ける権利を実質的に奪うことになるからです。


僕がおかしいと思うのは2点。

1.実務上は執行停止の申立てがなされれば執行しないのか?


もちろん僕は実務家ではありませんので経験に基づいた意見は述べられないのですが、上に書いてあるとおり日本の行政法は執行不停止原則をとっているのですから、たとえ執行停止の申立てがなされても執行するのが原則であるはずです。
公共工事に対して執行停止の申立てがなされるたびに工事を中断していれば、それこそ永遠に工事はできなくなりますし。

上記エントリーを書いた人は強制送還の事案を多く扱っている弁護士さんのようですので、「実務」とは強制送還の執行停止についての実務だと考えられます。外国人の強制送還の場合、執行停止の申立てがされている間に入管が強制送還を自主的にやめても、ほとんど公益には影響しません。しかし今回のような工事の場合、完成の遅れが即通行料の収入減につながります。


したがって、上記エントリーを書いた方が挙げる例は今回の件には当てはまらないのではないかと思います。他の事例を検討したわけではありませんが、工事の場合は執行停止の申立てがなされても普通は工事を続行するのではないでしょうか。(もし中断する例があれば教えてください)

2.執行停止の申立て中に代執行をしたら、裁判を受ける権利を奪うのか?


確かに執行停止の申立てをしているのにそのまま執行してしまえば、申立ての意味がなくなります。しかし日本の行政法はそうなることを前提とした制度設計をしている(執行不停止原則をとっている)のですから、執行してしまっても仕方ないというのが日本の法律の基本的な考え方なのではないでしょうか。

また、実際に裁判は受けているのですから、裁判を受ける権利を奪うとは言えません。




上記に引用した文章の下に執行停止の申立て後強制送還が実施されたのは1件しかないと書かれていますが、何度も書いてきたようにこれはあくまで外国人の強制送還の事案ですから、今回の事件でも同じように考えるのは非常に疑問です。

今回の事件についての個人的な感想


僕の家にはテレビがないのでマスコミがどのように報道しているのか知らないのですが、ネットで見る限りはどのような行政手続によってなされているのかなどはほとんど報道されていないようです。
まず収用裁決によってもはや保育園側に土地の所有権はありません。したがって本来すぐに明け渡さなければならないはずです。それなのに明渡しの期限を過ぎてからサツマイモを植え付けているのですから、むしろ子どもがどうの、という話になるのがおかしいのではないでしょうか。

法律に定められているとおりに執行し、しかもその執行にあたっても被害が最小限になるよう何回も交渉しているのですから、特に大阪府の側に責められるべき点はあまりないように思います。

僕自身は確認していないのですが、テレビで報道された子どもは保育園の園児ではないとか、保育園長が左翼関係の人だったりといった事情もあるようですね。



【参考】大阪府の代執行について、法的観点からのまとめ

*1:行政事件訴訟法25条2項は「処分の取消しの訴えの提起があった場合において」と規定しているので、取消し訴訟と執行停止の申立てはセットでしなければなりません