転職先から内定取消し、当然争えますよ。(必ず勝てるとは言いませんが)


ミラクル・リナックスによって不幸のどん底に落ちた人からの手紙
どう考えても転職先の会社のせいです。本当に(ryを読んで書いてみました。

内定*1の法的性質


現在のところ、内定については「採用内定の通知によって『始期付解約権留保付労働契約』が成立する」と考えられています。
すなわち、

  • 始期付=いつから働き始めるかを企業が決められる
  • 解約権留保付=採用内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取消し事由が生じた場合は解約できる権利を企業が持っている
  • 労働契約=通常の労働契約が成立


内定は予約*2ではありません。内定通知によって「契約」が成立します。始期付なので始期到来前(入社前)にはまだ労働契約の効力が発生していないだけです。したがって内定で示された始期が到来すれば、効力発生=被用者には労働の義務、使用者には賃金支払い義務が発生します。
すなわち、たとえ内定が取り消されたとしても、その内定取消しが無効ならば始期以降の賃金はもらえますし、会社で働くこともできます(働かせないのは会社の勝手なので、働いてなくても賃金は請求できる)。

内定取消し事由について


ただし内定は解約権留保付きの契約なので、内定通知書または誓約書に記載されている採用内定取消し事由が生じた場合は、企業から契約を解除することができます。一般的にどんなことが書かれているのか知りませんが、たとえ形式的にはその事由に該当する場合であっても制限的に解釈されることはあります。
最高裁判例*3は、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当な事由として是認することができるものに限られる」としています。
これは逆に、もし内定通知に内定取消し事由が書いてなくても、客観的に合理的で社会通念上相当な理由があれば内定を取り消せると言うことも意味します。



結局、採用内定の取消しが違法か否かは、「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる事由があるか否か」という問題、ということになります。

中途採用の場合の内定取消しについて争われた裁判例


中途採用の内定取消しを違法として損害賠償を認めた判決があったので、判決全文を載せてみました。重要なところは赤くしています。赤いところだけ読めば大体の事案の流れと結論がわかるかと。
事件の概要を簡単に説明すると、IT関係の製品作ってる会社に転職考えて内定もらったけど、なんか悪い噂(協調性がない・仕事でミスった)があるとか言われて内定を留保され、さらにどこの部署も噂を理由に受け入れ拒否したとか言われて内定を取り消されたから訴えた、というものです。

この事件の原告はすでに他の会社で働いているので労働契約上の地位確認請求はしていない=転職先の会社に雇えということは請求せず、損害賠償だけを請求しています。東京地裁は208万6693円(未払給与合計108万6693円,慰謝料100万円)および5〜6%の遅延損害金の支払を命じました。


現在控訴中なので最終的にどうなるかはわかりませんが、結論も理由も妥当な判決かと思います。

*1:ちなみに、4月頃に出されるいわゆる内定は「内内定」というものであり、10月頃に出されるのが「内定」です。今回のお話は後者について。

*2:ちなみに予約も契約の一種(将来本契約を締結することを約する契約)です。予約だからといって一方的に破棄すると、責任を問われることがあります。

*3:最判昭和54年7月20日 大日本印刷事件