橋下弁護士に対する判決への反応について思うこと。


まず、光市の弁護団のHPに判決全文が載っているので、そこから判決の要点だけをまとめてみます。


争点1:橋下弁護士のテレビでの発言は、弁護団への名誉毀損に当たるか


以下のテレビでの発言は、公共の利害に関わる事柄であり、公益目的があったことは認定。

「死体をよみがえらすために姦淫したとか、子どもに対してはあやすために首に蝶ちょ結びをやったということを、堂々と資格を持った大人が主張すること、これはねぇ、弁護士として許していいのか」

→この発言には真実性の立証があったとして違法性阻却。
不法行為ではない

「明らかに今回は、あの21人ていうか、安田っていう弁護士が中心になって、そういう主張を組み立てたとしか考えられない」

弁護団が被告人の主張を創作したという点については真実性が認められないとして、名誉毀損認定
不法行為認定


※(前提知識)

名誉毀損・・・公然と事実を摘示し、人の外部的名誉(社会的評価)を下げた場合が名誉毀損
しかしその行為が公共の利害に関する事実に関係することで、その目的がもっぱら公益を図ることにあった場合
→事実の真実性について判断
→真実と認められる場合には違法性が阻却される



争点2:橋下弁護士の懲戒を呼びかける発言は、名誉毀損による不法行為以外の不法行為にあたるか


この点については、判決文から引用。

弁護士法58条1項は、広く一般の人々に対し懲戒請求権を認めることにより、自治的団体である弁護士会に与えられた自律的懲戒権限が適正に行使され、その制度が公正に運用されることを期するものと解される。しかしながら他方、懲戒請求を受けた弁護士は、根拠のない請求により名誉・信用等を不当に侵害される恐れがあり、その弁明を余儀なくされる負担をも負うこととなる。同項が請求者に対し恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかである。このことは、虚偽の事由に基づいて懲戒請求をした場合には虚偽告訴罪(刑法172条)に該当すると解されていることからも裏付けられる。
そうすると、弁護士に対する懲戒請求をする者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査・検討をすべき義務を負うというべきである。また、懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者がそのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのにあえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解される。


懲戒請求をする人は、懲戒事由があることを自ら調査する義務がある。
さらに懲戒事由がない、または少し考えればないことが分かったのに敢えて相当性を欠く懲戒請求をした場合には、その懲戒請求は違法な懲戒請求として不法行為となりうる

個々の懲戒請求不法行為としての違法性を具備していないとしてもそのことからそのような呼びかけをすることが違法性を具備しないということにはならない。
すなわち、その性質上は適法行為であっても、たとえばその回数や規模によっては一定の損害を与えることは可能であって、そのことを予見すべき場合には適法行為を使嗾する(そそのかす)ことをもて不法行為であると評価すべき場合があることを否定することは出来ない。


懲戒請求は適法行為ではあるが、やりすぎると一定の損害が生じることが予見可能である場合には、懲戒請求をそそのかす行為自体も不法行為となりうる




これ以外にもあと2つ争点があるのですが、主なものは以上です。

まだ地裁であるとはいえ、社会的に影響のある事件ということで合議制(裁判官3人)で審理したものです。丁寧に規範定立および事実認定もされているので、高裁で覆されるということはあまり考えられないと思います。


光市の事件の報道を発端に今回の騒ぎは起こったわけですが、マスコミが報道する情報というのは報道する側が人々の耳目を集めそうなものを選んでおり、時にはある程度脚色してあったりするものです。
その報道を真に受けて自分の頭で考えずに脊髄反射で行動してしまうと痛い目にあうことがある(=懲戒をそそのかすのも、懲戒請求自体も不法行為になることがある)、ということですね。