「光の道」構想、ちょっとずれてませんか?

4月23日にあった孫正義社長の講演を聞いたり、佐々木俊尚さんのソフトバンクの「光の道」論に全面反論するを読んで思ったことを。


「光の道」構想は気持ちはわかるんですが、ちょっとずれてる気がします。なぜ光を使ってる世帯が30%しかないか。いろいろ理由はあるでしょうが、別に光じゃなくてもいい(ADSLISDNからスイッチする必要性を感じない)・そもそもネット(パソコン)を必要としていないということだろうと思います。上記佐々木俊尚さんの記事の中にも出てくる情報通信白書にも、

情報通信白書は今年度版の編集が進んでいるが、その中でインターネット未利用者に「なぜ(固定回線の)インターネットを使わないのか」というアンケート結果が出ている。「通信料金が高い」と答えた人は38%いたが2位にとどまっており、1位は「パソコンを所有していない、パソコンの価格が高い」の55%だった。続いて「自宅外や携帯電話の利用で十分」33%、「きっと使いこなせない」30%、「個人情報の流出や不正利用などが不安」27%。


とあります。

そんな状況でさらに多くの人に光ファイバーを安く提供できるようにしたところで、現状に満足してる人(パソコン(ネット)を使ってない人&光回線以外の回線を使ってる人)はスイッチしないでしょう。確かにネット回線は速いほうがいいかもしれません。しかし現状で何も不便を感じていない人に速いネット回線の利便性を語ったところでその人にとっては何がいいのかわかりませんし、現状を変化させるというのはそれだけでもほとんどの人にとっては負担になります。


ではどうすればいいでしょう?


人の行動原理はたったふたつだけです。それは、快を求めるか、不快から逃れるか。ですから、人に行動を起こして欲しいのであれば、そのユーザーにどんな体験をしてもらうかを考える必要があります。


具体的には、まずネットがないと不快な状況を意図的に作り出します。パソコンが使えない人への配慮もしつつ、行政の手続きなどをネットでやらなければ非常に面倒になるようにしたり、役所での手続には手数料をかけてオンラインですれば無料になるようにしたりします。ネットでしか提供しないサービスを開始してもいいでしょう。
同時に、ネットがあれば快いと感じる状況も作り出します。これは実は不快と感じる状況と表裏一体だったりすることが多いです。例えば、「(不快)投票所でしか選挙の投票ができない→(快)ネットでも投票ができる」などです。


ここでひとつ疑問があります。
「ネットが使える」ではなく「光回線が使える」ということならではの快・不快な状況というのはあるのでしょうか?


私は1年前に10Mbps以上は実効速度があったマンションの光ファイバーの契約を切って、今はイーモバイルの1Mbpsくらいの回線でネットをしています。でも、あんまり不便は感じません。回線速度は10分の1くらいになっているのに。
確かにニコ動とかを見るときなんかは光の方がロード時間が速かったりするし、HPの表示速度もやっぱり光の方が速いけれど、まあそれなりに快適にネットができてます。光回線を必要だと思うことはほとんどありません。スカイプUstreamも問題なく使えます。


ところで、こないだモバイルルータを買いました。CoviaのCMR-250というやつです。イーモバイルを刺してどこでもWi-Fiを使えるようになりました。さて、イーモバイルをパソコンに刺すのとモバイルルータに刺すのとではほとんど変わらないのに、なぜわざわざモバイルルータを買ったか?それは、モバイルルータの電源を入れておけば、パソコンを開いたらすぐにネットにつながるからです。


私は会社に行ったとき、ノートパソコンを有線ケーブルで社内のLANにつなぎます。これが結構煩わしい。まず鞄からLANケーブルを引っ張り出します。そしてそのLANケーブルをノートパソコンに接続します。ルータがいつも座る席の左側にあってLANケーブルを刺すポートがパソコンの右側にあるので、ケーブルをぐるっと回してこないといけない。そしてLANケーブルをつないだら、もうパソコンをもって移動できなくなる。ノートパソコンがデスクトップ化してしまうのです。一体何のためのノートパソコンでしょう?


ノートブックが普及し、最近のパソコンの周辺機器もほとんどがWi-Fiに対応しつつあります。デジカメもプリンターもDSもPSPもみんな無線LANで通信できるようになっています。


はたして日本の将来に必要なのは、「高速な光回線」なのでしょうか?国民が求めているのは「高速なネット回線を使うという体験」なのでしょうか?
国民が求めているのは、「パソコンや周辺機器を買ってきたらすぐに・簡単に(自分が何も設定したりしなくても)ネットを使えるという体験」なのではないでしょうか?


「光の道」構想にはおおむね共感しますが、もし私がIT戦略の構想を立てるとしたら、「パソコンを開いたらすぐにネットにつながるようにする」こと(無線ネット回線プラットフォームの構築や規格・仕様の統一)と、国民がネットで行政サービスをもっと利用できるようにし、行政のコストを削減することを提案します。
もちろんこれにはいろいろと問題があります。無線LANのアクセスポイントはどうするのか。セキュリティ(パケット解析の危険性など)はどうするか。人口の99%をカバーするだけの無線LANプラットフォームを作ろうと思ったらどれだけコストがかかるのか。そもそも技術的に可能なのか。


しかし、街中でも田舎でもいつでもネットができるようにすることは、大きく国民の生活を変えることになる意義ある事業だと思います。パソコンにネットをつなぐ作業は初心者にとってはハードルが高いものです。ましてや無線通信の環境を手に入れるには、自分で無線LANのルータを買ってきて自分で設定しないといけない。パソコンをさわったことがないお年寄りに要求するのは酷でしょう。有線の光回線を推進するよりは、無線通信網を構築して、ネットをあって当たり前の電気や水のような存在にすべきだと思います。



携帯電話は電話回線を家庭に引かなくても電話ができるようにしました。今度は通信回線を引かなくても家庭でネットができるようにしたらいかがでしょうか?




ちなみに会社にはこないだ無線LANルータを入れてもらいました。会社でiPadを買うからです。iPadには、有線LANのケーブルを刺すところがないんです。なぜスティーブ・ジョブズは有線LANを捨てたか?皆さんはお分かりですよね。