企業法務に関する体験談的なもの


一応取締役をやっていて、ロースクールで法律を勉強しているために法律関係のトラブルは一手に引き受けている私の体験談的なものを。
ちなみに、体験談「的」としているのは、あまりに経験が浅いために“企業法務”を口にするのははばかられるという思いがあるからです^^;


問題となってる事案は以下の通り。(悪徳商法?マニアックスよりコピペ)

事件の概要

1. 2008年3月、はてなのコメント欄に複数の人物の住所・氏名とともに私の住所・氏名が羅列されていたのを発見
2. 同月、「はてな発信者情報開示の流れ」に従って、発信者情報開示請求
3. 2008年6月までに、開示も開示拒否の連絡も無かっため提訴
4. 2009年1月21日に判決言い渡し


まあ要するにはてなで名前晒されたから誰が晒したか教えろ、とはてなに言ったら無視されたので裁判所に訴えて開示命令もらったよ、ということなんですけれど。

まあ判決自体はそれでいいんじゃない?って感じで、問題は「企業というものはみな法務部というものを持っているのか?」ということです。

私は、以前からはてなには法務部はないと思っていた。なぜなら「部」とするには、普通に考えれば、少なくとも3人体制以上は必要だろうから。このコメント中に、「はてなには法務担当はいない」とは一言も書いてないので、もしかしたら法務担当はいるのかもしれない。ただ、正直、専任法務がいるようには見えないので、実際、法務部どころか選任の法務担当もいないんじゃないかと思うけど、これは私の推測にすぎない。
はてなに法務部がない理由 - チョコっとラブ的なにか


ついこないだ、たまたまはてなの法務に関する話を聞く機会があったのですが、たぶんはてなに法務部というものはなくて、総務部で全部処理してるんだと思います。
(マニアックスの記事からはてなって落合先生が顧問をしているんだ、と思って個人的に少し驚いたのですが。だからはてなダイアリー書いてはるんですね。)


で、一般的な会社の話についてですが、法務部がある会社なんてほとんどないです。だって必要ないですから。

たとえば法務部というものを作って3人をそこに配置するとします。一人あたり月に30万支払うとすると、それだけで月90万。月10万払って弁護士と顧問契約結んだ方がはるかに安上がりです。

そして何より、そもそも弁護士や法務部を必要とするトラブルなんてほとんど発生しないという実情があります。


弊社は取締役・正社員・バイトを合わせて10人と少しの小さな会社なのであまり参考にならないかもしれませんが、ここ数年で私が法務担当として処理したのは、派遣の人が途中でいきなり来なくなって派遣会社ともめたときと、お客様がちょっと高価な商品をもう引き返せない段階になってからキャンセルされたときと、隣の人と土地の売買について交渉したときだけです。

弊社だけではありません。取引先でも法律トラブルに巻き込まれたという話はほとんど聞いたことがありません。私の少ない経験を一般化するのはあまりよくないかもしれませんが、おそらくほとんどの中小企業(従業員が100名以下)で法律知識を要するトラブルなんて年に数回あるかないかくらいです。

そのためにわざわざ法務部を作ったりするのは、コンプライアンス的には誉められたことかもしれませんが、経営者的には誉められたことではないと思います。深刻なトラブルが起こったときには1万円払って弁護士に相談に行けばいいだけですし、他は普通に話合いで解決すればいいだけのことですから。

また、不動産関係のような法律トラブルが多そうな業界でも、普通はトラブルが起こらないように全部手続がルーティン化されているので、何か特殊な事態が生じない限り、従業員の法律知識で十分対応できます。やっぱり法務部はいりません。

さらに、代理人落合洋司弁護士によると「はてなは法務部も無いし、はてなが直接開示するという前例は無いので、開示は遅くなります」とのことですが、この期に及んで、きちんとした対応体制の整備を行う気も無いようです。
悪徳商法?マニアックス


最近コーポレートガバナンスコンプライアンスがより重視されるようになってきています。確かにすべての株式会社は法令を遵守した体制を作り上げるべきなのでしょう。しかし、法務関係の仕事が毎日あるわけでもないのに法務部を置くというのはナンセンスです。上場でもしていない限り、その場その場の対応で処理していても責めるべきではないと思います。(もちろん、「いい加減な対応をしていい」というわけではありません)
「対応体制の整備」と言われても、「これからはちゃんと対応します」くらいのことしかできないんじゃないでしょうか。



ただ今回の件で気になるのは、はてな発信者情報開示の流れによれば

2.開示請求内容の確認

請求を受付た場合、はてなは申立書類に記載された連絡先等から申立者の本人確認(代理人による場合は委任関係の確認を含む)、侵害情報の確認を行う。

請求の項目に不備がある場合は、はてなは5営業日以内に判断の理由を付して再度の請求を要請する。

はてなが発信者情報を保有していないか、発信者情報の特定が著しく困難な場合は、開示が不可能である旨を請求者に回答する。

請求者が自己の権利を侵害しているとする情報が存在しない場合、はてなは権利侵害が明らかでないとして、請求者に開示を拒否する旨を回答する。


と、5営業日以内に回答すると書いているようにも読める*1けれど、上記の悪徳商法?マニアックスの事件の概要によれば3ヶ月間はてなは放置していたんですよね。これは何でかなぁ、と。

裁判所に提訴するまではしないだろうと思って、落合先生が「そんな大したことじゃないからほっといたら?」とかいうアドバイスをしたんじゃないですかね、たぶん。思いっきり憶測ですけれど。


別に法務部はなくても、誠実な対応というのはできますからねぇ。

*1:5営業日以内に回答するのは不備がある場合だけ、と読むのが素直だが